瞼を閉じて、テーブルに突っ伏すして寝息を立てているのは銀次。
蛮は、いつものようにその向かいに座って、夏実にはとても読めない外国語の本を読み耽っている。








ありがとう








ちょっと出てくるから、そう言って外出した波児に代わって今は夏実が店を預かっていた。
静かな音楽の流れる中、三人だけの店内。雑用も済ませてしまって何もする事のなくなった夏実はとりあえずカウンター内で一つ息を付く。
いつもならばマスターである波児やレナがいるから夏実一人が店内にいるのは少しおかしな感じがした。
比較的安全とはいえ、裏新宿に近いHONKY TONKに夏実一人と言うのは無用心と言われればそうなのかもしれないが、GBの2人が入るから何となく安心感があって、夏実は少し笑んだ。
波児が店を出て行くとき、2人にこっそりと自分を頼む。と言っていたのは夏実は知っていたのだ。マスターと静かにマスターの言葉を実行している2人に胸が温かくなって、夏実はふと立ち上がる。
なるべく二人の邪魔にならないようにと静かに奥の扉を開けると、食料の保管庫にもなっているそこには、夏実が以前レナと一緒に買い物に行った時に購入しておいた紅茶の葉。
休憩時間に自分たちが好んで飲むそれは、カンの中程まで減っていた。
(ちょっと位なら、いいかな。)
そう考えて、カウンターへと戻るといつもしているように、お湯を沸かして紅茶をいれる。
用意されているカップは三つ。いつもの「蛮様専用」と書かれたコーヒーカップではなく、落ち着いた色合いのティーカップに蒸らし終えた紅茶を注ぐ。
紅茶の香りが広がって、夏実はトレイにティーカップ2つを置くと、二人の居るテーブルへとそれを運んだ。

カチャ、と蛮の前に紅茶が置かれる。
「蛮さん、どうぞ。」
にこりと笑う夏実にあぁ、と呟いて読書中の本に栞を挟みテーブルの端に置く。
ゆったりとした動作で紅茶を飲むその姿は何だかとても優雅で、夏実は知らず溜息をついてしまった。
「マスターのコーヒーには敵いませんけど。」
溜息を誤魔化すように笑いながら夏実は銀次の分のティーカップを置く。
その動作におや、と蛮がサングラスの奥で小さく目を瞠った。
「…分かんのか?」
何が、とは言わない蛮に夏実は暫く何の事か分からない顔をしていたのだが、蛮にこいつ、と銀次を示されると漸く合点のいった表情を浮かべた。
「銀ちゃん、冷める前に飲んでね。」
答えは銀次に対する言葉と共に示されていて、蛮が小さく苦笑した。


「夏実。」
背を向けてカウンターに戻っていた夏実を言葉一つで振り返らせて。
サングラス越しに視線が合って、蛮は笑みを浮かべる。

「紅茶、うまかったぜ。サンキュ。」

滅多に見ることのない年相応の笑顔と恥らいながら言われる言葉に、一番反応したのはそれまで俯いていたはずの銀次で。
「蛮ちゃ〜ん!!」
ガバッと起き上がり、テーブルから身を乗り出して蛮に懐く銀次の勢いに、夏実は唖然としてしまった。
「ちょ、銀次てめぇ、何しやがるっ!!」
抱き付かれた衝撃で零れそうになる紅茶を器用に持ち直し、懐く銀次を引き離そうとする。蛮の頬が赤いのは恐らく夏実の見間違えではない。
そのままじゃれあいに突入した二人を見て、夏実はくすくすと笑った。
その光景は、彼女にとってはよく目撃する物で。それを温かく感じたのはきっと、そこに日常を感じたからなのかな、と二人を見遣りながら夏実は波児の帰ってくるまでの時間、暖かな空気を存分に感じていた。














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最後、めちゃくちゃです。…ごめんなさい(ぇ)
途中で無駄に急ぎ足になってて、満足するしない以前の問題…
小説掲示板のとは最後違う事になっていますが、これも初め考えていた話ではありません。今思いt(以下略)
銀次は始めの方は、寝たふりです。狸寝入り。