何故だろう、と思う。

どうして、彼から齎されるものは綺麗なものばかりなのだろう、と。

幾ら汚れたものを見ようとも、決してそれに染まる事の無い少年が今は少し、羨ましかった。







現世に煉獄はなく、天国か地獄だけがある。
―――聖フィリッポ・デ・ネリ






「大佐、ちょっと顔貸せ。」

執務室に来ていきなりのその言葉に、ロイは思わず仕事の手を休めてエドワードの後に従った。


少し早足で向かった先は、日当たりの良い公園。
噴水を中心に訪れた人間が和めるように、そう設計された場所だった。

無言でそこに向かうエドワードにロイは沈黙に耐え切れず、声をかけた。

「鋼の?」
呼び声は、思ったよりも弱弱しかった。

「大佐、今あんた自分がどんな顔してるか分かってんのか?」
返された言葉からは乱暴ながらにも、心配そうな響がにじみ出ていた。

「…今、私はそんなに酷い顔をしているかい?」
目の前の少年をこれほどまでに心配させるほどに。

「あぁ。」

少年の答えには、間が無くて。
それが何だか今は新鮮な気がした。



親友の葬儀の後、周りがまるで腫れ物を扱うように慎重に自分の相手をしてる事に気付いていたから。
そう思うと何だか情なくなって、自嘲の笑みがもれた。





「あんたは、こっちにきちゃ行けない。」
小さく、もれた笑みに少年は予想外の大きな反応を返した。

「・・何の事だね。」
果たして自分の声は、震えてはなかっただろうか。

「あんたは、人体練成をしようとしてる。」

「・……。」

的を得た言葉に反応は、返せなかった。

「あんたは、それがどんなに愚かしい事か、どんな結果を招くかを知ってる。だから、やっちゃいけない。」

「……鋼の。」
今度は、声の震えを抑えようとする余裕すら、無かった。

「オレは、あんたが好きだよ。だから、これはオレの勝手なエゴだと思ってもらっても構わない。でも、そうまでしてもオレは、あんたにそれをさせる訳には行かない。」

そう言う少年の瞳に浮かぶのは決意と。そしてそれ以上の、哀しみ。


閉じられたその瞳から、一筋涙が零れた。


「もう、嫌なんだ。」
ぽつりと落とされたその言葉に、呆然としていたロイは、我に返った。

「…何が」

「母さんが死んで、ニーナが死んで、ヒューズ中佐が死んだ。
 もう、これ以上オレの前で大切な人が死ぬのが嫌なんだ。」

「私は、」
死のうとしたわけではない。そう、返そうとした。

「確かにあんたは死のうとしたわけじゃないって分かってる。でも、ダメだ。」

相手の言いたいことを、瞬時に理解し反応を返す事のできるほどの聡明な子供から聞かされたものは、理由の無いもので。

だからこそ、それは根本的な、人としての願いのように思えた。



「頼むから、もう…」

掠れた言葉に先は無い。

また、涙が少年の頬を伝って、一瞬だけ地面に影を落とした。



次々と零れる涙にロイは手を伸ばす。

指で目に触れる直前に小さく揺れたエドワードの肩。
それを宥めるかのように、優しく涙を拭いた。

拭いきれなかった涙が地面に落ちていく。

太陽の光を反射して落ちていくそれはキラキラ光って、とても、綺麗だった。










どこまでも汚れを知らないような少年。

赤く、黒く染まった自分が少しでも真っ白な彼に近づければいい、そう思ってきつく面前にあった小さな肩を掻き抱いた。

肩に押し付けられた顔から零れた透明な液体に、これで最後だから、そう、心中で呟いてロイはただ静かに涙を流した。


















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あれですよ、何が失敗って、
妹と私が同じ時間に同じシリーズの本の同じ巻二冊を違う場所で買ってきたということです。
つまり、妹と私が買ってきたが為に今我が家には鋼の四巻と六巻が二冊あります。
それがショックで書いてしまった小説(ぇ)人間勢いで結構行けるもんですね。

何だかエドロイな空気漂ってますが本人はロイエドだと言い張ります(またかい)

いろいろ突っ込みあるだろうですけど、あんまり突っ込まないでやって下さい。