ひょいっと、肩に担がれて屈辱ともいえるそれを許してしまうのは、悔しいが自分を担いでいる人に勝てない自信があるからだ。

















いちばん簡単で、いちばん明白な思想こそが、いちばん理解し難い思想である。
―――ドストエフスキー「未成年」



















ひょい、と今や恒例行事となりつつあるアームストロング少佐の肩の上でエドワードは珍しく大人しくその場に担がれていた。
何かあったわけではない。ただ、視線の違いと言うものに少々興味をもっただけだ。

「エドワード・エルリック。」
「何?」
「どうかしたか?」
肩に担いでいる本人がコレなのだ。回りの人間も珍しく大人しいエドワードを興味深げに伺っている。
その視線は敢えて無視をして。

「物を見る高さが違うと、印象も随分違うんだな。」
「そうだろうな。」
感慨深げに呟くエドワードににっこりとアームストロングが笑った。


まるで親子のような二人を、周りは温かい目で見守る。
ほのぼのとするその光景がその場の軍人たちを和ませながら、しかしそんな事は露ほども思っていない二人は、軍部内を闊歩していた。
暫くきょろきょろと周りを見渡していたエドワードの視界に入ったのは、黒い髪。

「…げ。」
無意識に、エドワードの口から漏れた呟きをアームストロングは勿論ロイも聞いていて、
「何をしているんだい?」
只でさえ人目を引く巨体の上に居る小動物にロイが笑いながら、声を掛けた。

ロイが面白いものを見つけた、と言わんばかりの表情で二人の正面に立つ。
「…何で大佐が居る。」
「私の執務室はこの部屋だが?」
この部屋、そういわれて指差された部屋は確かに、ロイ・マスタング大佐の執務室。
そこら一体を闊歩しているうちに周りの風景に気を取られ、気付かないうちに来てしまったらしい。
己の失態にエドワードは内心で舌打ちをした。
が、舌打ちしたと同時にある事に気付いた。

自分は先程、顔を俯かせて喋ってはいなかっただろうか。

普段は見上げないといけないロイを今は見下ろす事が出来る。
子供らしい優越感に浸り、もう一度ロイを見る。目に映ったのはアームストロングと話しているロイの頭。

―――これは、オイシイ。
にやり、とエドワードが笑む。
体を前に倒れかけさせて、ロイの頭に手を伸ばした。真っ直ぐな黒髪を右手で掴もうとして、そして、

「…う、わっ!」

バランスを崩した。
前に倒れこみすぎて足だけでは体全体を支える事が出来ず、アームストロングの肩から滑り落ちる。
先には、固い床。体を受身にする事も出来ず、エドワードは瞼を固く閉じた。
だが、いつまで経っても訪れない衝撃に瞑っていた瞼を開ける。
まず目に入ったのは、呆れた表情をしているロイ。
「大丈夫か?鋼の。」
「エドワード・エルリック?」
どうやら、落ちた瞬間ロイの腕に抱え込まれたらしい。

腕に抱きかかえられている事よりも、折角得た距離感を失ったことの方が悔しいエドワードは、悔し紛れにロイの額に手を伸ばす。
そして、怪訝そうにそれを見守る大人二人の表情を無視して。

―――パンッ!!

勢い良くデコピン、そう呼ばれるものを喰らわせた。






















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…ごめんなさい。
最近の後書きの決り文句ですね、はい。
最後の最後で…こんなパターンが前にもありましたね。
とりあえず、アームストロング少佐は好きです。アニメ、輝きすぎです。
本当は、甘い話なんですが。
気分がそんなじゃないので、此方のVerをUPしました。気が向けば日記にでも続きか何かは書きたいです(とか言ったら滅多に書かないけど)