「鋼の。」

呟かれた声は地を這うような、と比喩されるようなそれで。
白に身を包んだエドワードは気まずそうに目を反らした。








Otium sanctum quaerit veritatis; neigotium justum suscipit necessitas caritatis.










「どういう事かね?」
声はどこまでも固く。
ゆっくりと、エドワードの腰かけているベットに近付いてくるロイ。
「…知ってんだろ。」
「何故子供など、助けた?」

エドワードの怪我の原因は、車の前に飛込んだ子供を助けたためで。
エドワードのお陰で子供は無傷で済んだのだが、助けたエドワードは勢い余って壁に激突。どうやら打ち所が悪かったらしかった――そもそも子供を抱えていたため、受け身が取れなかったのだ――、その上心配そうな子供の手前、怪我をしていることを言うわけにもいかず、その後自力でたどり着いた病院にそのまま入院、となったのだ。

「その言い方は気に入らないな。」
まるでその行為自体が悪のように言うのは。
「あのまま子供がひかれていた方が良かった、そう思うのか?」
「君が大切だ。」
「オレの体の一部と人の命じゃ、重さが違う。」
「―――……‥」
ロイが黙り込んだ。
無表情なそのままの顔で腕をエドワードの顔に伸ばす。
それにエドワードは次に来るであろう衝撃に備えて反射的に瞳を閉じた。


だが、エドワードの頬に触れたのは、サラリとした熱。

何度も頬を撫でるロイのその行動に、エドワードは訝しんで、瞳を開けた。
そこにあったのは相変わらず無表情なロイの顔。

「……大佐?」
「――‥良かった。」
言葉と共に溜め息が吐き出され、緊張で張り詰めていた糸が緩む。

ロイはエドワードを引き寄せ、抱き締めた。
「心臓が止まるかと思った。」
その姿に、言葉にいつもの余裕は、無い。
「頼むから、もうこんな事はしないでくれ。」
きつく、エドワードを抱き締めたまま、小さくかすれた声で言われる懇願のようなそれに、エドワードはあぁ、と思う。



自分はこれほどまでにこの男に――…‥



「ごめん。」
「許さない。」
「は?」
「と言ったらどうする?」
どうする…って、と悩み出すエドワードをロイはようやく腕の中から解放した。

「じゃあ、オレはどうすれば良い?」
エドワードはロイを見た。
何をすれば許すのだ、と瞳で問掛ける。

「…傷を見せなさい。」

ロイの答えに、エドワードは渋りながらも一番怪我の酷かった左手を出した。
一応、出血は止まっていたが包帯はエドワード自らの血によって薄く赤みが帯ていて。

痛々しそうにそれを見たロイは、やがてその包帯を解き出した。
「ちょっと、あんたなにやって…!」
慌てて手を引っ込めようとしたエドワードの怪我のしていない腕を捕まえて、動けないようにする。
「良いだろう、この位、私がした心配に比べれば安い物だ。」
まだエドワードは何か言いたげな顔をしていたが、ロイは気にせず包帯を解くことに専念した。


するり、と全ての包帯が取り除かれる。

現れた左手は当然のことながら、傷口は閉じておらず生々しく出血の跡が残っていた。

「………。」
「放せよ…。」
ロイの沈黙に堪えきれなくなったエドワードは再び腕を引こうと、した。が、

「っ!」
エドワードが小さく息を飲んだ。

ロイはエドワードの傷口に触れるか触れないかの所に軽い接吻を繰り返し落とす。
羞恥よりも驚愕が勝って、固まったまま動くことを忘れたエドワードをいちべつしただけでロイは再び傷口に唇を寄せる。


ただ触れる、それだけの行為にエドワードの体は意思に反して温度を上げていって。

「…大佐。」
「何だね?」
「放せって。」
自分の体が熱を持っていると気付かない内に――気付かせないために。

「私にこうされるのは嫌かい?」
「そうじゃないけど、でもっ…」
悲痛な表情で言うロイにエドワードは誤解を解こうとしたが、先が続かない。続けられない。
言える訳が無かった。






―――――欲しくなった、などと。




迷うエドワードの体をロイは再び抱き締め、肩に顔を埋めて、
「エド、お願いだからもう少し自分を大切にしてくれ。」
そして、ようやく絞り出すように発せられた言葉。

「…大佐?」
「君が入院したと聞いたとき、子供をかばって怪我をしたと言われた時、本当に生きた心地がしなかったんだよ。」
優しく語られるそれに、エドワードは罪悪感を募らせていった。
「…本当、ごめん。」
「無茶をするなとは言わないがせめて、自分の体を余りぞんざいに扱わないでくれ。」

私の心臓がいくつあっても足りなくなるから。
そう言うロイにエドワードはひたすら申し訳なくなって。
「…うん。」
鋼の義手をロイの背中に回した。











「今日で十年分の寿命が縮んだ。」
「うっ…、だからごめんって。」
「言葉だけか?」

先ほどまでの態度とは打って変わって何かを期待するかのように細められた瞳にエドワードは言葉に詰まった。

が、落とした視線の先にあった包帯を付け直さなければ、と考える。


「先に、包帯直して。」
今度は自ら左手を出して。

その言葉と行動に、ロイは苦笑を浮かべて落ちていた包帯を拾い上げ、丁寧にエドワードの左手に巻き付けていく。
「これで良いかな?」
「ん。ありがと。」


じゃぁ、とエドワードは頬を赤く染めながらもロイの頭を引き寄せ、そして、唇をロイのそれに重ねた。




謝罪と感謝と申し訳なさと、そしてそれ以上の愛しさが伝われば良い、そう考えながら。














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題名の文章に突っ込みは不可。
書いた自分が恥ずかしくなってますので意味分かっても知らない振りしといて下さい(涙)

途中からエドが誘い受けし出すので私が吃驚。
どうやらうちのの大佐はエドにキスされるのが好きらしいです。
夜中に書いてたせいか、嬢とメールしていたせいかはしりませんが、危なかったです(笑)