黒と金が寄り、触れ合いそうな距離で揺れた。 教養の法は必然的に優遊の法である。
―――林語堂
あー、とハボックは煙草をくわえ、何とも言えない表情を浮かべて熱弁を繰り広げている上司と少年を視界に収めた。 ホークアイに「大佐に渡しておいて。」そう手渡された書類は未だ、自分の手の中にある。一応、入室の許可は得たのだが、今や自分の存在は窓際にある観葉植物と同等のような気がする。いや、下手をすればそれ以下だ。 二人の間に割って入って書類を手渡すべきなのだろう、本来ならば。 大佐の側近兼、お目付け役の彼女ならば間違いなくその行動を取るのだろうが、生憎とハボックは馬に蹴られるのだけはゴメンだ、そう思った。 普段の二人を知らぬ者ならばただの喧嘩に見えるであろうそれ。 だが、 (あんな嬉しそうに怒鳴りあっててもな…) 二人を良く知るハボックは二人の瞳に、表情に浮かぶ僅かな感情の機微を非常に的確に察知した。 額がぶつかりそうなほどの至近距離で何事か――恐らく錬金術――が書かれた紙を広げて繰り広げられていく討論。 飛び交う単語はハボックの全く知らないモノばかりで。どうにかするわけではなく、ただ二人を見ていたハボックはふと思いついた。 黒と金ー…。 そのコントラストはまるで、夜の暗闇に浮かぶ冷涼と輝く月ではないか。 (まぁ、気質を表すのなら、大将は太陽だよな。) むしろ月は彼の弟だろうな、とハボックは今は図書館で本の山に埋もれているであろうアルフォンスを想った。 自分たちが大佐に振り回されているように彼も彼の兄に振り回されて居るのだろうな、と妙な同族意識が生まれそうになるのを頭を振って打ち消す。 二人の様子は先程と全く変わりない。 なんだか直立しているのが疲れたな、と考え出したハボックの存在に二人が気付いたのは、時計の長針が盤の上を半周ほど掛け終えた後だった。 ---------------------- 何なんでしょうか、これは。短いですね、分かってます。 伊達に三十分で書き終えただけはあります(死) 文章は相変わらず脈略ありません(涙) |