白と黒が、混ざればどうなるでしょう。







覚悟はとうに出来ていた ( 一幕 )







「灰色。」
当然という言葉と共に自信満々に告げられた、その言葉。
それに、向かい合った男はクスリと笑って手元の駒を進めた。
二人が向かうのは白と黒の敷き詰められた盤。ルールに従って動かされていくのは、白と黒の駒。

男の一手は中々厳しい。暫くうめいて手駒を動かす。
下手に動くと、むしろそれを逆手に取られる。ここは、正面突破で。
優勢に立っているつもりでも、最後には何でもない顔をして勝利を攫っていくのがこの男の食えないところだと少年は思う。
少年の駒に、男は笑みを深くして、悩む間もないと言った感で駒を進める。

「残念、白と黒は混ざらない。」
「おい。」
そう言う問題ではなかった筈だ。
「そうは思わないかね。二つは相容れぬもの、混ざり合える事は無い。」
「ふーん、」
意味の無い会話はただ流れていく。

意識の大半は面前の盤へと向けられているのだから、仕方のない事だけれど。
静寂が訪れないように繰り返されるそれは、最早意味の為さない問い掛け。

「どっちでもいいけどね、俺は。―――まぁ、妥協も必要だろうよ。」
適当な答えを寄越して少年が駒を進めた。
「君にそう言うことをいわれるとは、少々不気味だな。」
妥協、それほど少年に似合わない言葉も無いだろうと、男は言うのだ。
少年も自分自身でそう思う。確かに、らしくない。

「生憎と、灰色も嫌いじゃないんでね。」
にやりと笑った少年は、男が動かした駒により一気に表情を変える。
その変化を見取った男は、清々しく笑った。

「黒か、灰か。」
「うるせぇ。」

このまま進めて負けを取るか、リザインを取るか。
この時点で少年の勝つ可能性は、ほぼ0%。多少チェスの嗜みがあるらしく少年はリザインをする局面と言うのをきちんと知っていた。
元々目の前の大人に勝てるとは思っていないが、それでも負けは悔しい。

(まぁ、覚悟はしてたし。)
ゲームの初めから。

負けの決まっている勝負に、それでも少年が乗ったのは退屈だったからただそれだけの理由で。
そう理性は考えるも、元来の負けず嫌いの性格も手伝って感情はそれに素直に従いはしない。
諦めたような溜息一つと、笑みを落として、


「前言撤回。灰色は嫌いだ。」

言葉と共に、駒を進めた。










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リザインとはチェスで負けの確定している場面で、自分からゲームを放棄する事です(BY弟)
エドワードとロイな感じで(←何)
時間軸なんて考えちゃいません。チェスのルール?んなもん知りませぬ。(微妙に)弟に(基本的なところは)教えてもらいました。
やっぱり張り合ってた方が書きやすいです。