街中でエドワードは面倒くさそうに、自分の前に立ちはだかる体躯のいい男を見上げた。 始まりは何でもない。 ただ、ぼーっと何をするでもなく町を散策していたエドワードがぶつかった相手と言うのが、柄の悪い男だっただけの話だ。 靴が汚れただのお決まりの言葉を吐く男は目つきも悪くて、いかにも真っ当な人間ではなくて。 一般市民ならば、怯えてそのまま靴でも弁償してしまうんだろうな、と退屈そうに考えていたエドワードの目つきが鋭くなる。 感じたのは、更に増えたお仲間らしい気配と、面白そうに自分を見ている視線。 (あんの、ヤロ…) 言葉は、後者の人間に向けて放たれた物で。 「聞いてんのかっ?!」 仲間が増えた事によって、更に調子付いた男がエドワードの肩を揺する。 その衝撃に不機嫌そうに目を細めて。 次の瞬間に男が見たものは、反転する世界と鮮やかなほどの、金色の残像。 伸ばされた腕を腕で掴み、巧く男の体重の重点をずらさせて足をなぎ払えば、体重を支えきれない体はいとも簡単に崩れた。 呆然と倒れた男を見ていたもう一人の男が、我に帰ってエドワードに腕を伸ばす。 が、その腕は途中で第三者の手に捕まった。 男はそれに怒声と共に手の主に掴みかかる。しかし、その男もまた先程のように軽く倒される。 背を向けて横目でそれを見ていたエドワードは、振り返って自分に加勢した人物を見る。 「何であんたがここに居る。」 「助けてやったのに、酷い言い様だな。」 やれやれと肩をすくめるその人は、ロイ・マスタング。 どうせ仕事をサボりに市外に下りたのであろう男を呆れたように見遣って、エドワードは歩き出す。 それにロイは腕を伸ばして、エドワードの腕を捕らえる。 「何だよ?」 ロイに引き寄せられるままに傍に寄ったエドワードを、見下ろすロイの表情は何故かとても楽しそうで。 それに嫌な予感がして、気分後ろに3歩下がる。 「助けてやったのに礼も無しか?」 「勝手に助けたのはあんただろ。」 「だが、助けた事には変わりないだろう。」 人はこれをありがた迷惑と言う。 そう思ったもののそれを口に出すとまた屁理屈で応戦してくるであろうロイに、溜息を一つ。 「…で?」 何して欲しいんだよ。 諦めて自分を見上げる少年の言葉に、そう言えば考えてなかったと自分らしくもなく悩むあたり、先程の行動は無意識だったと認識せざる負えなくて、つい笑みが漏れた。だが、気の短い少年相手ではいつまでもそう考えている場合ではなくて。 「そうだな、買い物にでも付き合ってもらおうか。」 口を出たロイの要求にエドワードは、それだけか?と訝しげにロイを見上げる。 それ位ならば、別に礼として要求されなくても付き合うのだが。 「では、決まりだな。」 手を引かれて歩き出すエドワードが、ロイと手を繋いでいる事に気付いて、慌ててその手を払うのはまだ、大分、先。 ---------- 思いついただけなんで、何でもないのですが… 結局の所、お互い相手に礼を期待していないと言う事でしょうかね(え?) ロイがセントラル移動する前の話って事で。 |