[ 確 信 犯 の 失 敗 ]
『 静 寂 1 0 題 』より


雲の上にある城に、雪は降らない。
地上に比べ気温の差異が小さいといってもやはり、冬は寒くて。
吐く息の白さに陽子は小さく嘆息した。










『静寂10題』より

No.06 確信犯の失敗











夜が明ける前が一番暗いのだと、言ったのは一体誰だったろう。

徹夜で執務を終え、景麒たちに部屋に押し込まれたのは半刻ほど前。
だが、一度冴えてしまった頭は中々眠りにつこうとしない。少しくらい睡眠を取らなくても死にはしない体だ。一晩くらいならば許容範囲だろう、そう勝手に結論付けて部屋を抜け出したのはつい先程だ。
夜明け前だろうか、誰一人としてすれ違う事はない。部屋を抜け出した時に虎嘯に止められはしたがすぐに戻ってくるから。そう言って無理矢理に納得させた。
少し悪かったかな、ぼんやりと考えた。まぁ、後で謝ればどうにかなるだろう。

つらつら考えていた時に丁度目に入った扉。
確かこの部屋は使われていなかったはずだ。そう考え他に行くところも無いから、と扉を開けて室内に入った。
少々埃っぽい室内には扉から真っ直ぐな所に、開けた窓の奥にはそれなりに大きな庭。
金波宮にある中庭の内の一つであろうそこは時間を潰すには丁度よい場所で。
いい処を見つけたな、と陽子の口元に笑みが浮かんだ。

庭の一角には大きな木が一本。
木の根元に体を預けるように凭れ掛かる。
小さく嘆息すると、白い吐息が吐き出された。一応上に服を羽織っては来たものの、それでもまだ肌寒い。
少ししたら部屋に戻ろう、そう考えて瞼を閉じた。






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いつの間にか眠ってしまったらしい自分の背中に感じるのは、人の体温。
それが余りに心地よくて、その腕に擦り寄った。
「おやおや。」
続いて聞こえた聞き慣れた声に、一気に目が冴えた。

「…浩瀚っ!!?」

ガバッという音でもつきそうな感じで陽子が文字通り、飛び起きた。
「おはようございます、主上。と言ってもまだ日は出ておりませんが。」
慌てる自分とは対照的に、にこりと笑う浩瀚。
それを恨めしく睨んで陽子は、だがバツの悪そうに視線を逸らした。
「いつから居たんだ?」
「部屋に戻っていた時に、窓の外から主上を見つけまして。木の幹から滑って倒れそうになられて危なげだったものですから。僭越ながら私めが支えさせて頂こうかと思い。」

…ささえ?

浩瀚の言葉通りに浩瀚はしっかりと陽子の腰を支えて、体が傾かないように固定していた。
浩瀚の話を聞く限りそれは正しい。が、何も知らない外から見るとこれはどう考えても、恋人同士の逢瀬ではないだろうか。
陽子はしっかりと浩瀚の腕の中で固定…抱きかかえられて居るのだから。

「………………。」
「…主上?」
思わず悩みだした陽子を浩瀚が訝しげに呼ぶ。

「…えぇっと。―――とりあえず、離してくれ。」
暴走しそうになる思考を無理矢理現実に引き戻し、自分を支えている人に言う。
いつまでもそうされているのは気恥ずかしかったし、そもそも服に皺がつくのではないだろうか。
自分の官服にも間違いなくついているであろう皺に陽子は、困ったように溜息をついた。帰った後の祥瓊の反応が怖い。
考え込んでいた自分を浩瀚が丁寧な扱いで、地面に立たせた。
それに、ありがとう。と礼を言うとお気に為さらず、といつも通り冷涼な笑みと共に手が伸びて髪に付いていた葉っぱを落とす。
どこまでも丁寧なその仕草に、陽子の頬が高潮した。…尤もそれは暗闇に隠されて見る事は叶わなかったけれど。

「主上、幾らここが内宮といえど危険がない訳ではありません。何処でもお休みになられないようになさって下さい。大僕は如何なさりました?」
「う…、まぁ、なんだ。気にするな。」
「気にします。主上?」
「…お前の笑顔は景麒のより怖いぞ。」
「それは光栄です。主上、お答えを。」
笑顔、である。終始笑顔の浩瀚に陽子が折れるのは結構早かった。
「…ちょっと出てくるって言って虎嘯には見逃してもらった。
悪いのは私だ。あいつを責めるなよ。」
「そうお思いならば、次からこのような事の無いようになさって下さい。」
「…善処しよう。」
陽子の言葉に浩瀚は小さく息をつく。
結局こうやって見逃してしまうあたり、虎嘯も自分も目の前の少女に甘い。
まぁ、冗祐もついてるし。
未だ言い訳を言う陽子の目は、すっかり泳いでいる。視線の端で見た空の端が白んでいた。夜が、明ける前触れ。

それに、黙って陽子の言い訳を聞いていた浩瀚はその言葉にふと陽子を見る。

「浩瀚が居るから、大丈夫。」

にっこりと視線を合わせながら笑む陽子に浩瀚が、瞠目した。
「…私とて、常に主上の元へ居るわけではありませんが。」
苦く言う浩瀚をくすりと笑って、庭の手すりへと歩む陽子を夜明けの光が包む。
くるり、と体を反転させて。
「いつもじゃなくても、危ないときは居るだろう?」
朝陽を浴びて輝く緋色の髪と翡翠は、常に輝きを帯びていて、それの鮮烈さに、輝きに思わず目を細めた。
ここまで信用されていると、却って期待に添わないことは出来ないな。そう考える浩瀚の顔には思考とは別にむしろ穏やかさが宿っている。
大切な人に頼られると言うのが、これほどまでに幸せだというのは陽子に出会って初めて知った事だ。

本人が思っているよりも人を口説くのが上手い少女に、浩瀚は苦笑を一つと柔らかく光を帯びる髪に唇をひとつ落とした。













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浩瀚を景麒にすべきだったかと微妙に後悔。
2人が出来ているかいないかは、ご想像にお任せいたします。
文章が滅茶苦茶なのは本人が一番分かっております。校正しだしたら止まらないので目を瞑ってください(汗)
浩陽大好きだー。でも口調分からないー(ぇ?)の意思表示。閣下好きです。でも主上はもっと好き(ぇ)