「だ〜!わっかんねぇよぅ!!」 深夜二時。六太の絶叫はどう考えても近所迷惑ものである。だが、テスト期間恒例のそれに対する苦情は今までに一度もない。 それはひとえに、上下左右のなかなかに変わった住人達のおかげなのだが。 「どうしたの?」 苦笑とともに向けられる笑みも恒例のもの。とはいえ、彼女の笑みはいつだって六太に与えられている。 朝に、夕に。 「陽子〜コレ。」 六太は机から顔を上げ陽子を振り返る。それまで熱心に覗き込んでいたプリントを差し出した。 「なになに〜?現役女子大生が教えてしんぜよう」 軽く笑いながら陽子はプリントを受け取った。目を通す。 乾燥地の灌漑農業と水環境 −中央アジア・アラル海流域にこける灌漑農業− 1.砂漠化とは 「……」 「あ、最初の方はわかってるから、6.の所見てくれよ」 6.対策と国際社会に期待される役割 ・現状の正確な診断→問題点の抽出→的確な対策 短期的対策: 中期的対策: 「短期的対策は、とりあえず飲料水の確保だろ?中期的対策だと、やっぱ、排水改良・排水システムの整備、送水ロスの改善とかしかないのかなぁ?リーチングした水が流れなきゃ、また塩類集積しちゃうわけだしさ。リーチングするにしたって水が大量に必要で、やっぱり水の節約のために用水路の整備だろ。水周り以外の対策はないのかなぁって。でさ、アルファルファ植えるとかして、輪作体系と栽培作物を考えるってのは対策にならないのか?それくらいじゃ追いつかないからダメなのかな。」 一息にまくし立てていた六太は、一度息を吸いなおした。 「てことはさ、国際社会的には、結局は金の支援なわけ?改良だの整備だの、実際金が無きゃできないじゃん。協力団体の派遣とかもあるんだろうけど、それだって国としては先が見えてないから嫌がるし。まぁ、それは金も同じなんだろうけど。」 「………」 「どうおもう?」 六太の問いに陽子は答えた。 「頑張れ☆」 それはもう、六太ですら初めて見た、極上、最上級の笑顔で。 END コメント:無(あえて言うなら信じないで下さい) 参考になる資料:[乾燥地の灌漑農業と水環境] 参考になる資料:[水文・水資源学会誌1998年NO.4〜1999年NO.3] |