「…お父さん、ですか?」 どうしてもそうは思えないのだが、目の前にはその人物しかいないので聞いてみた。 「あいつはそう呼ぶ気はさらさらないようだがな。」 電車を乗り継いで小一時間、陽子は六太の家へと着いた。 陽子の借りている部屋から六太の通う学校までは徒歩5分。家と学校との距離は六太が陽子の部屋にしょっちゅう泊まる理由…口実となっていた。 だが、六太の口ぶりから察するに、それ以外のものもあるらしい。父親と二人暮しのはずだが、詳しい事は知らなかった。六太が自分の事を話したがらないのはいつもの事なので、陽子は本人に聞くことを諦めて大昔のアドレス張を引っ張り出し、六太の家へと向かったのだ。 「…ここ?」 陽子の目の前には『小松』の表札。 郊外の住宅地らしく、周りには建売であろう似たようなつくりの家々が立ち並んでいた。 初めて訪れた陽子には目的の家を見つけるには少々辛かったらしく、気付けば日が傾きかけている。 表札を確認すると、意を決してインターフォンを押した。 ほどなくして、ドアが内側から開かれ若い男が現われた。23〜5程度だろうか。女性にしては長身である陽子よりも、頭一つ分ほど背が高かった。顔は…並以上だろうか? だがしかし。 いかんせん若すぎやしないだろうか。どう考えても高校生の父親とは思えない。いやまて、もしかしてすげく若作りなのか!? 「あ〜、もしかして、陽子さんか?」 一人悩んでいると、思いもよらない言葉をかけられた。さらに激しく動揺してしまった陽子はオロオロしながら聞き返す。 「えっ…そうです…でも、その、なんでっ!?」 「六太から、散々聞かされているからな。燃えるような髪の、彼女のことは。」 陽子は言われてから自分の特徴を思い出した。 日本人離れを通り越して人間離れした、真っ赤な髪。 昔はコンプレックスに思い常に気にしていたのだが、ここ数年、まったくといって良いほど気にしなくなった。 それは友人達のおかげでもあるのだが、やはり一番の理由は六太だろう。 六太の明るい髪と、それと同じに明るい性格。恋人同士となる前から、陽子は六太に感化されていのだ。 おかげで、今の陽子は昔の彼女からは信じられないほど活動的になった。 「あー、立ち話もなんだ、とりあえずあがらないか?」 かけられた言葉に"じゃぁ、お邪魔します"と応えて家へとあがらせてもらう。 昔ならば、遠慮して断るか、本当に六太の親族かきちんと確認するかしただろう。 六太のお陰で良くも悪くも陽子はかわった。 END 陽子ちゃん、無用心になってるょ… 知らん人の家にあがられん! |