宝石



「キ〜ラ?」
問い掛けられた言は早くしてくれ、と何よりも雄弁にキラに語りかけた。



「ん〜、ちょっと待って。」
本日数回目になる台詞をキラは繰り返した。
言いながらも目は先ほどからずっと宝石を見続けている。
カガリへの、プレゼントになるであろうそれを。

「第一なんで今ごろそんなモノ買ってるんだよ。」
アスランが問う。
それもそのはずカガリの誕生日は五月。
今は九月。時期が幾らなんでも外れすぎなんじゃないのか?


「良いんだよ。」
言葉は、あくまで優しく。いとおしむような感で。
今だから、良いんだよ。
そうキラは繰り返す。

「どうして?」
いまいち要点の掴めないアスランは聞く。

「今は戦争してないだろう?」
今、僕は戦っていない。
「でも、カガリは戦ってるんだ。」
戦争終結後、カガリは父の後を継ぎアスハとしてオーブ代表となった。
彼女が代表になったのは、九月。
丁度、数年前の今ごろだった。

「彼女は僕にいろいろな物を与えてくれたんだ。」
姉として、友人として、仲間として彼女が与えてくれた物が今も尚、キラの中で温かさを与えてくれる。

「だから、今度は僕がカガリに。」

せめてものお返しになれば良い。
本当は実際に会いに行けばカガリは凄く喜んでくれるのだろうけど。

どうしてもそれはできないから、毎年何かを送る事にしていた。
人は、心だけではダメだから。
何か、何でもいい、心の形となる物があれば更に安心できるから。
キラはそう考えたのだ。


「…どれ?」
「…アスラン?」
横からアスランが顔を覗かせた。
「だから、悩んでるの。候補はあるんだろう?」
「ああ、うん。
 えっとね…これと、これ。」
一つは透明度の高い、惹き付けられるような赤をしている、ルビーのネックレス。
もう一つは鮮やかな蒼みがかった幻の石と呼ばれる、パライバトルマリンの指輪。

「…こっちの方がカガリらしくないか?」
そう言いながら指差したのは、ルビー。
赤のほうが、カガリには確かに似合う。
「でも、パライバトルマリン、綺麗じゃない?」
トルマリンの王様と名高いその石は小さいのになんだか存在感がとても強かった。



「よし、それじゃ、こっちにしよっ!」

暫く悩んでいたキラはようやく、買い物を終わらせた。







続きます。…多分。