「唄を。」 頬を膨らませて、拗ねたように呟かれた言葉。 なんと返すべきか分からなくて、自分より小さな頭を見下ろす。 「唄を、歌って下さい。」 怪訝な視線を睨むように撥ね付けて、フロドが言った。 Song 「…唄?」 つい先日目が覚めたばかりのフロド。 真っ白なシーツと綺麗な服に身を包み、指には固く巻かれた包帯。 ベットに座ったままのフロドに視線を向けると自然とそれも目に入った。 痛々しげなそれに、気付かれない程度に眉を歪めて。 「唄を歌って下さい。」 戸惑うアラゴルンを余所にフロドは再度強請るように言う。 「僕は一度も貴方が歌う唄を聞いた事がありません。」 「…唄なら、歌ったが。」 王となったその時に。 フロドもそのには確かに居て、聞いた事が無いはずは無い。 アラゴルンが考えていると、フロドが緩く首を振った。 「僕は、貴方の唄が聞きたい。」 「私の?」 「そう。王の歌ではなく、貴方の唄を。」 聞かせて下さい。 真摯な視線に、アラゴルンに迷うような間があった。 アラゴルンにしてみれば、何故フロドがそのような事を言うのか全く見当がつかなった。 常日頃、物欲に乏しい上に周りの者に気を使いすぎる気のある小さな人の、珍しいお願いに嬉しく思いつつも同時に不思議に思うのはきっと仕方の無い事なのだろう。 尋ねたかったのだが、フロドの目がそれを受け付けなくて首を傾げながらも、要望に応える為に口を開いた。 音となって出てきたのは、故郷を思う調べ。 Alas, my love you do me wrong to treat me so discourteously, And I have loved you so long delighting in your company. Green sleeves was all my joy Green sleeves was my delight, Green sleeves was my heart of gold and who but Lady Green sleeves. ゆったりとした音は、二人しかいない空間にゆっくりと満ちていった。 やがて、余韻を残して唄は終わる。 目を瞑って耳を傾けていたフロドは、ゆっくりと瞼を開け嬉しそうに笑んだ。 「ありがとうございます。」 いつもと変わらない表情。拗ねていた理由を聞くタイミングを失ってしまい、アラゴルンは、いや…と濁して返す。 しかし、フロドはアラゴルンの様子に気付いていて。暫く考えるような間が置かれた。 「わがまま言って、ごめんなさい。」 この人を困らすつもりは無かったのだけれど、様子を見る限りそういう訳には行かなかったらしい。 「どうして、唄を?」 フロドのベットに腰掛けて、髪を優しく撫でる。行為は言葉よりも雄弁にアラゴルンの心情を示していた。 「貴方は、王様ですから。」 唐突なフロドの発言に訳が分からず、思わず髪を撫でる手が止まる。 「でも、今の貴方はアラゴルンです。」 「…フロド?」 やはり訳が分からなくなって、説明を求めるようにフロドの名を呼ぶも、今度は薄く微笑するだけでフロドは答えようとしない。 「アラゴルンの唄が、聞きたかったんです。」 再度、繰り返された言葉にそれでもアラゴルンは訳が分からなくて。 しかし、フロドがこれ以上説明する気が無いという事はしっかりと分かってしまい、まぁいいかと自分らしくない結論で止まっていた手を動かしフロドの髪を撫でる。 その手に目を細めてフロドはアラゴルンの胸に寄りかかる。 逞しい腕が小さな体を、緩く腕に閉じ込めて。 静かな、2人だけの空間でフロドの耳にゆっくりと先程の調べが繰り返された。 ----------------- いや、甘くないね。うん。でもこれが限界です(涙) 因みにアラゴルンに歌わせたのはイギリスの民謡、グリーン・スリーブズです。 他に思いつくものがなかったとかは内緒です。初めはいっその事フランス民謡の月の光に、してやろうかと思いました(妹が随分前に弾いていたので) リクエストに答えれてなくてごめんなさい(滝汗) 色々間違っててもそっとして置いてやって下さい。 ヘタレな王様です(どうなんだろう) |