その日、蛮は酔っていた。





drunk panic.





「ぽぉーるぅー、もっと飲めっ!!」
顔を真っ赤に染めて、HONKY TONKの店主に絡む蛮。
波児に背中から抱きつくようにして酒を勧める未成年に波児は呆れたように溜息をついた。
「おい、飲みすぎだ。」
酔っ払いにこんな事をいっても意味が無いと分かっていても言ってしまうのは多分自分の世話好きのせいだ。
「だーいじょうぶだって!」
手をヒラヒラさせて言う蛮に、こりゃ完全に酔ってるなと波児は再び深く溜息を落とす。
「…夏実ちゃん」
とりあえず、この酔っ払いを寝かせてしまおう。そう結論付けて店員の少女を呼ぶ。
はーい!と明るい声がして表に現れた夏実は顔を真っ赤にした蛮を不思議そうに見遣った。
「蛮さん、酔ってるんですか?」
「あぁ。それで、ちょっとこいつ寝かせる準備してくるから様子見ててくれるかい?」
「はい。」
夏実が肯いたのを見ると波路は自分の方に顎をかけて睡眠体勢へと入っていた蛮をそっとイスに座らせ、テーブルに凭れ掛けさせた。
夏実ちゃんが居ればまぁ、大丈夫だろうと他人からすれば不可解な答えに1人で納得し、波児は二階へと続く階段へ足をかける。
階段の途中でふと見た、蛮たちの居る所から少し離れたテーブルからは未だ飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎ。
無限城に居るはずの弦使いやらその親衛隊に漫才師、動物使いに仲介屋、それに蛮の相棒の姿を確認して、まだ当分終わりそうに無い宴に波児は呆れて見なかった事として二階へと登って行った。


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とりあえず蛮と二人きり(と言うのもおかしいが)となった夏実は蛮の座っている向かいのイスに座る。様子を見ていてくれ、と言われたものの、何もする事が無い事に気付いて夏実は丁度いい機会だからと蛮を観察するように自分もテーブルに顎をついた。
いつもの髪型ではなく、髪が降ろされているのは蛮がHONKY TONKに来てすぐシャワーを浴びた為だろう。何の手も加えられていない髪は真っ直ぐで漆黒。
長めの前髪に隠されるようになっている瞳はいつものようにサングラスに隠されていたけれど、それをかけていても尚グラスの奥が覗ける距離に夏実はいた。
―――……美人だなぁ。
整った容貌に、白い肌。アルコールによって上気して目元が赤いのは何だかとても艶かしくて。
夏実は思わず感嘆の溜息を付いてしまった。

「夏実ちゃん。」
「はいっ!!?」
だからだろう、背後の銀次の気配に気付けなかったのは。
元々気配に聡いという訳でもないけれど、気付けないほど鈍くも無い筈なのだが。
「あ、銀次さん?」
「ゴメンね、ビックリさせた? …あれ、焼きすぎてない?」
あれ、と指で示された先には焦げた臭いと黒い煙の出ているオーブン。
そして、確かあの中には、
「チーズケーキがっ!!」
ガタッと慌てて席を立ち、銀次さん、蛮さんをお願いしますっ!と叫ぶようにしてキッチンに走る夏実を苦笑で見送って銀次は蛮の眠っているすぐ隣のイスに座る。

静かな寝息を立てる蛮を起こすのは忍びなかったが、それを一瞬の杞憂と片付けて、銀次は蛮の肩を揺する。
「…蛮ちゃん、起きて。」
暫くそうしているうちに、蛮の瞼が震えた。
「……………――――銀、次?」
ぼんやりと目を開いた蛮におはようと呟いて。
寝起きでぼーっとしてる蛮を見つめながら銀次はポケットからなにやら金色の包装紙に包まれた物体を取り出し、それを開けて、自分の口の中に入れた。
そのまま無言で蛮を引き寄せ、静かに唇を重ねる。
くちゃ、と湿った音がした。
銀次が蛮の口内に先程自分が口に含んだ物体、チョコレートを移したのだ。
移し終えても銀次は唇を離そうとせず、むしろより一層執拗に舌を絡ませる。
されるがままの蛮の頭は恐らく半分以上は未だ夢の世界だ。
ん…、とどちらかの口から曇った音が漏れ、漸く唇が解放される。
こく、と盤の喉が溶けたチョコレートを嚥下した。
「美味しかった?蛮ちゃん。」
にっこりと銀次が笑う。
それに、まだ夢から醒め切っていない蛮がこくりと頷いた。
じゃぁ良かった。と笑んだ銀次を見納めて、盤は再び睡魔に見を委ねて眠りについてしまう。
力が抜けて倒れ掛かってきた蛮の体を抱き寄せて、銀次は耳元に口を寄せて囁いた。

「ハッピー バレンタイン。 蛮ちゃん。」










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ツッコミ不可。(いつもだろ)
蛮ちゃんが髪を降ろしているのは私の趣味です(きっぱり)
前半の意味は全く無い小説です。書きたかっただけとも言います。
バレンタインに因んでみました。自分でこれ書いてるとき鳥肌が立ちました。
あれですね、自分で甘いの書いてたらむしろ気色悪いです。
…頑張った(何)実は初、GB小説だったりします。
鷹塚さんに脅され奉げました。