Hell or Heaven?/4.知らないことの罪 「どうしてと、あなたがたが言うのは勝手だけど。」 さんは僕の方をじろじろ見た後、渋沢キャプテンを見上げて口を開いた。僕を見ていたのはたぶん、身長を比べていたんだと思う。さんは僕より少し低いくらいの身長だったから。 上原君や渋沢さんが怒る気持ちはもわかる。木田さんは死んでしまったのに、さんは悪びれた風もなく笑っていたから。さんのクラスメートも、木田さんも皆死んでしまったのに。でも、僕達が悲しいように、この人は悲しくなかったのかな?悲しいっていうより、辛くなかったのかな。今こうして僕達の前で笑っていられるのはすごいと思う。…色々な意味でだけど。 「私はどうして、掻っ攫われて殺し合いをしないといけなかったの?」 駅のホームに、人が増えてきた。そろそろ電車が着くころだから。 さんの言葉に、誰も返事をする事が出来なかった。返す言葉が見つからない。ここでさんを責めることは、目の前にいる人が死ねばよかったのにっていう事だから。僕達は今更ながら気付いた。自分たちがどれほど残酷かを。 皆がばつ悪げな顔をしている中で、さんだけがニコニコと笑っていた。ざぁ、という大きな音と、金属が軋んだり擦れ合ったりする音がして、電車がホームに入ってきた。さんはくるりとむきを変えて電車へと向う。 「あのっ!」 僕はさんの背中に声をかけた。さんはさっきみたいに幼い子みたいな動きでこちらへ向きを変える。 「何?風祭君。」 「あっ、あ〜、えっと…」 つい声をかけてしまったけど、本当は何を言うかなんて考えてなかった。焦って、ちょっと耳が熱くなった気がする…。さんは相変わらず笑顔だった。 「あ!明日、木田さんのお墓参りに行くんです。」 今日の選抜練習で、西園寺監督から木田さんのことを聞いた。その後皆はなかなか練習に集中できなかった。監督が"この程度ことで、とは言えないから。皆、木田君のことを考えてあげてね"といって、練習はいつもより早めに終わった。それから皆で話し合って、明日メンバー全員で木田さんのお墓参りに行くことになったんだ。ちょうど明日は土曜日で学校もなかったし。 「一緒に行きませんか?」 少し後ろにいる桜庭君が驚いているのがわかった。上原君は怒ってるだろうし、渋沢さんもいい顔はしてないと思う。でも僕は誘った。さんの立場からいって、自分から足を運ぶのは難しいと思うし。 「ありがと、風祭君。でも私、明日予定入ってるから無理。渋沢君くらい背が大きくて、無口でカッコいい彼氏とデートなの」 相変わらず笑顔だったけど、僕には泣き出しそうなのをこらえている顔に見えた。ありがとうってことは、僕が誘った理由わかってくれたのかな。そんなに悪い人じゃないみたい。…あっさり断られたけど。 「おいお前、」 桜庭君が、電車へのろうとするさんを追うように一歩前へ出て言った。硬い表情をしている。 「何で名前、知ってるんだよ」 電車のドアが閉まる音と重なった言葉は、とどいたかどうかわからない。さんはドアのすぐ側に立ったままこっちを見ていた。硝子越しに僕達に手を振った後、電車は発車。僕達は顔を見合わせる事になった。 -------------------------------------------------------------------------------- Hell or Heaven?/5.異端審問;この嘘さえも罪 細く線香の煙が上がっている。 四十九日を過ぎていない事を表した一本きりの線香は、根元近くまで燃え尽き線香立ての上で小さく赤い点となっていた。 花など飾られてはいない。小さな紙袋に入った何かが、ポツリと供えられている。 は墓の前に立ったままぼんやりとしていた。それでもその顔は笑っている。何を考えているのか、何も考えていないのか判らない表情だった。 ザリと、墓地の砂利道を踏む音がしてはそちらへと視線を動かす。3人の少年がの前で足を止めた。と墓とを見比べた後、一人が口を開く。 「自分でやっておいて、いまさらどのツラさげてここにいられるわけ?大体さぁ、後悔するんだったら死んじゃえば良かったじゃん。なに?平静も保てなかったの?サイアクだねそれ。勢いで〜ってやつ。てか、この場に居る資格、無くない?」 色の黒い少年が、何か言いたそうな顔で口を開いた少年を見ていたが、結局何も言わなかった。今は試すような瞳でを見ている。後の一人は困った顔をしていた。 少年がもう一度口を開こうとした時、 「翼さん!」 墓地に風祭の声が響き、も翼もそちらを見る。風祭の後ろにはぞろぞろと少年達がが連なっていた。都選抜の面々である。 「自分だけの視点から出される意見、嫌いじゃないよ。」 は翼に言葉を返す。 にとって責める言葉が辛いという事は無かった。寧ろ下手に同情的な言葉や、優勝者も被害者だと庇うかのような意見の方がこたえる。自分が一番自分を責めたい気持ちで居るからだ。言葉に甘えて、泣いてしまいそうになるのも嫌だった。 翼の言葉は偏った意見だが、は正しくもあると思ったのだ。不快には感じない。 そんな事を知るわけも無い少年たちは不審の色を濃くした。 「!さん…」 風祭がに気付いた。 「制服って事は、今日、学校だったの?」 「んーん。ほら、学生の礼装って制服じゃん?」 「〜〜〜!将っ!!」 意味の無い会話に翼がキレた。風祭をポカリとやった後、を睨みつける。渋沢が"椎名、"と声を掛けると、翼はわかってると怒った声でこたえた。 「あれ、でも今日デートじゃなかったんですか?」 風祭は頭を押さえながら聞いた。昨日の言葉を思い出したらしい。翼は更に渋い顔になった。上原、桜庭、渋沢の3人も表情を強張らせる。 「そ。デート中なの。」 は語尾にハートマークでも付きそうな勢いでこたえた。 察しの良い数名は驚いた表情を隠せない。 「それで、名前……」 桜庭は昨日からの疑問が解けて、呆けたような顔をしている。 上原も気付いたのか、奥歯をかみ締めていた。 「うん。圭介、楽しそうに選抜の話聞かせてくれたからね。」 と身長がかわらないくらいの頑張りやの少年。ヒヨコ頭で子供っぽい子。老け顔のキャプテン。普段は無口な木田だったが、選抜のことはよくに話していた。そんな木田を見ては、サッカーや選抜のメンバーに嫉妬した事もあったのだ。今日のデートの約束も、久々に休日に選抜練習が入っていなかったからだ。約束は守られなかったけれど。 「せっかくのデート、邪魔しないでって言いたいんだけどさぁ。」 は苦笑しながら墓へと向き直る。線香を一本摘み上げると、空いた片手でライターを持つ。線香に火をつけ、線香立てに立てた。煙の量が倍になる。それでもその煙が天まで届くことは無く、すぐ風に紛れて消えてしまう。 が一歩下がって場所を譲る。誰もが無言だった。 嫌な沈黙の中、少年たちが順番に線香を立てた。花を供えて、手を合わせる。 帰りぎわ、風祭が沈黙を破った。 「本当に、さんが…?」 少年たちは息を飲んだ。風祭を見た後、の返事を待つ。それぞれが疑問を持っていた。本当はじゃないのではないか。どうしては殺せたのか。 どうして?なぜ?真実は? が答える。 「名前を、呼ばれて。振り返って。」 手を後ろで組み、嬉しそうに思い返している。少年たちは神妙な顔つきだった。 「抱きしめられて、キスしたの。」 真新しい制服のスカーフが揺れた。あと1ヶ月ほども着ることの無い制服。新調する虚しさもは"うわ無駄ーー!ハハ!!"と笑い飛ばした。 「んで、唇が離れる前に、」 指でピストルの形を作る。は自分のこめかみへとその人差し指をあてた。 満足げに笑っている。 「バン。おかげで頭から血まみれ。」 少年たちはの言葉と笑顔に真実を探した。 地獄天国まとめて後書。謝罪。補足。 5.でとりあえず終わりです。とりあえず。地獄天国は。 サツキが書きたいものを書いただけなんでホントもう落ちとかなくてごめんなさい。 木田が死んでいようがなんだろうが木田夢だと言い切ります。 一応各話ごと後書。 1. 短い。でもこれないとバトだって判り辛いので書いてみた。 2. 一番気張って書いた。木田上っぽく。頑張った。(そんなところ頑張るな) XX. 何でこの位置にあるのか意味不明。最後に持ってきたほうが良いのに…。 でもここには木田が出てるよ!やったね☆(←馬鹿ですから) 3. ヒロイン一人称…。うん。何か、一応無いといかんかなぁと。 4. 風祭視点は難しすぎた…口調が気持ち悪いですがな。 やっぱり桜庭の影が薄い…… 5. 名前変換多っ!三人称で夢やるもんじゃないっすね。 色々入れ忘れた台詞とか、後悔も多し。 副題は付けようかどうか悩んだけど付けてみた。U-14出すつもりだったけど失敗。 代わりに風祭。 |
モドル |