不可視光線/a



体力は一応、持ち合わせているつもりだった。
スポーツをする身としては並以上のつもりだった。
それでも、炎天下で30分間ひたすらダンスを踊り続けることはなかなかに疲れる。
「違う!ちゃんと列で合わせて!!」
運動会の応援合戦。パネルと平行して得点の高いこの種目の練習中。
団長のが、音楽にかき消されず全員に言葉が届くよう声を張り上げて指導している。本番で団長は、一人団員と違う動きのパフォーマンスをするのだから、ダンスをする必要はないのに、律儀にダンスを憶えて直接指導している。本人曰く、示しがつかないから、らしい。
そういう気遣いのできる、真剣なは嫌いじゃない。でもいきなり"ムックはどうした"とか言ってきたり、勉強しなくても点数稼げるくせにテストの山を張れなんて言ってくる辺りでダメだ。バカモードのは相手にしていられない。
「おい、イガチャピン!!遅れてる!次休憩取るから、それまでしゃきっとな。」
ボンヤリとしていると、テンポが一拍ずれた。
イガチャピンって…伊賀+ガチャピンってことか?
注意されるのはかまわないが、真剣なままでそんなバカみたいなあだ名を使うのは勘弁して欲しい。真剣にバカなのか、バカなのに真剣なのか、なんだかもうぐちゃぐちゃだ。
ああ何かもう下らない事考えてるな。暑さにやられたか。

「おっけ。ダンスは今日ココまで。各自休憩取ってから、競技ごとの練習に移って下さい。」
注意されてから3回ほどダンスを繰り返した後、休憩になった。
ほとんどの団員がグラウンドの隅の日陰に入る。俺も日陰まで移動して、地面に座り込んだ。グラウンドの先ほどまで居たあたりを見れば、数名を相手にダンスの指導をするの姿がある。指導というよりは、手本を見せているといった方が正しいか。が何かしゃべりながらダンスを踊っている。
きびきびとした動きは相変わらずだったが、それでも俺はがかなり疲れていることがわかった。鋭いといわれる俺の読みに、幼馴染という要因まで絡んでいるから、まず間違いないだろう。もともとに体力なんてモノはないのだ。
しかたないので、立ち上がってまた日向へと出る。大音量でダンスの曲を流し続けているラジカセの横に置いてあったの水筒を持って、のところへと向った。
「おー!ガッチャピン。どしたの。スキューバしたいの。」
いきなりバカモード全開で絡んでくる。普段と変わらないように見えるが、少し目を細めたのは疲れている時の動き。息が上がって、少し舌足らずな言葉遣いになっている。語尾がやたら下がるのも、からかっている風に見せて本当は息継ぎがしんどいから。
一緒に練習していた、おそらく後輩だろう数名が真剣だった時との差に顔を見合わせている。
「…、休憩。」
そう言って水筒を突き出した。この言葉に、ダンスを教わっていた面々は"ありがとうございました"の言葉を残して、今度こそ休憩に入った。
「ほらお茶、飲んどけよ。余ったら持って帰るの重いだろ」
"疲れたー"とか言って、帰り道で荷物を押し付けてくるのは目に見えている。そのときに水筒の中身の有無はなかなか問題だ。
倒れでもされたらさらに問題だ。アイスが食いたいのプリンが食いたいの、我侭言われまくるに決まっている。
「わかった。ありがと。」
素直に返事が返ってきた。こいつ、相当疲れてるらしい。どうかとばっちりがきませんように。




モドル