不可視光線/b




先に言っておくが、俺は予知能力とか持ってない。ただちょっと読みが鋭いだけ。
「衣装は全員、学生ズボンに学ランで鉢巻します。女子は誰でもいいので男の子に借りてください。」
体育館の床へ座り込んだ団員を前に、 が大きな声で叫んでいた。団員から暑苦しいとの抗議の声が上がる。俺もそう思ったが口には出さなかった。
「あー、はいはい。総練習で衣装そろえたかったんですが、暑いし汚れるので当日のみ着ます。でも早めに準備しておいてください!当日忘れたら目立つよー」
…何か嫌な予感がした。しつこいようだが、俺の勘は鋭い(らしい)。 は一人立ったまま次の指示を出している。その無駄なほど元気な笑顔に酷い脱力感を味わった。
その後、体育館の2階へと移動した。各団が運動場.体育館.体育館2階.本館屋上の四箇所を30分交代で使っているからだ。
「学ランかー。あっついけど俺、の学ラン姿見たいかも」
「うわ、聞いたかよ伊賀。山田があぶねぇ!」
「かなりバカだな。ま、自分の学ランでも貸してやればいいんじゃね?」
「それだ!伊賀ナイス!!」
「「バーカ」」
友達と喋りながら階段を上った。上がりきると、もう既に2階へ上がっていたと応援代表らしい数名がなにやら相談していた。応援の内容はもう総て決まっていたので、おそらくこれからの練習についてだろう。ここは他の練習場所と比べてかなり狭い。となると練習は……声出し、か?
「はい、皆聞いて!こんな所で出来るような事はたいしてないので、声出しします。厳しいので覚悟してください。学年毎に整列!」
の言葉に団員が面倒そうに列を作った。中にはため息をつくのもいる。ただひたすらコールと掛け声を叫ぶだけの練習だ。先にだいたいわかっていた俺だってため息をつきたくなる。
「はいそこー、イガチャピン。ため息も歯も出さなくていいから声を出せ。」
理不尽なの言葉はシカトして、3年の列に並ぶ。隣の山田がニヤけた顔をしながら肘で小突いてきた。何が面白いんだか。
一通り声出しをして、3年は終了。各自休憩と、やる気がある奴は学年競技種目の作戦会議になった。もちろん、俺は休憩組み。2年生達がしごかれているのを横目に、友達とだべっていた。
「伊賀君!」
むさくるしい男の集団に、女子の声が掛けられた。しかも俺。また山田が意味不明にニヤついている。こいつ本当に危ないんじゃないのか?
声をかけてきたのはだった。と仲が良くて、は俺に突っかかってくるわけで。そういうことで俺はともそれなりに話したりする。でも、今声を掛けられる理由はわからなかった。
「何?どうしたの?ムック志望?」
……ちなみに、言ったのは俺じゃなくて山田。さり気に友達やめようかと思った。は慣れているのか、少し笑っただけだった。まぁ、あのの友達だけはある。
「命の危機を感じるから遠慮させてもらおうかしら。それより伊賀君、応援の衣装貸して欲しいんだけど。」
命の危機って…俺が何するって言うんだ。いや、その前にガチャピン・ムックを否定するけどな。
「あぁー、悪い。他に貸すから。」
めちゃめちゃ嫌な読みが、たぶん当たる。には悪いが、予想出来ちまったものはしょうがない。山田がニタニタ笑っている。て言うか、お前が思ってるような面白おかしい青春劇はありえないぞ。俺だってどうせなら水岡に貸してやりたいし。
「ウソ!もう決まってるの〜。」
はかなり落胆していた。そういえば、と違っては男友達は少なかったか。あんまり当てがないんだろう。
「代わりに山田が貸してくれるそうだ。」
「え、えぇ?でも…いいの?」
「良いんだろ、山田?」
さっきまでニヤけてた山田の顔は、かなり焦りの顔に変わっていた。


モドル