万物の内にひたすら「一」を視よ。「二」が人の道を誤らせる。





















いつも通りの司令部。
ただ一つ違うのは、既に談話室と化している通信室に金髪の小さな少年と、大きな甲冑の少年が居た事だけ。
だからなのだろうか、部屋は軍には到底似つかわしくない、明るい笑い声で満ちていた。


「『あなたは余命一年と医者に言われました。さて、どうする?』」
ハボック少尉がまるで、ゲームをしているように言った。

話の流れ、と言うのかどうかは怪しいが、確か初めは「自分の死に様」とか言う冗談にならないような話になっていた。
しかし、何だかやけに生々しいその話に自然と話題は逸れていき、そして、今に至った。


「俺は死なん!!」
根拠のない自信で質問の意味を理解しているのか、と思わず問いたくなるような答を発したのはヒューズ中佐。(何故此処に居るかとか言う事を突っ込んではいけない)
続いて聞こえた、愛しい嫁と娘を残して死ねるか!と言う叫びは(惚けを過去聞かされた人々[つまりその部屋に居る全員]によって)敢え無く黙殺された。

「とりあえず仕事の引継ぎを。」
続いて何でもないように、やけに現実的な答えを出したのは、ホークアイ中尉。
彼女のセリフにその場に居た軍人全てが遠い目をする。恐らく彼らが見ているのは中尉亡き後のどこぞの大佐だろう。有能だが女癖とさぼり癖が付いているあの大佐を繋ぎ止める事が出来るのは目下ホークアイ中尉と、鋼の号を持つ少年だけだ。

「大将はどうする?」
ハボック少尉に話を振られたのは先程ホークアイ中尉に入れてもらったカフェオレを大事そうに飲んでいる金髪の少年――エドワード・エルリック。

「ん〜? そう言う少尉は?」
俺はまだ悩み中、と片手を振りながら言うエドに逆に聞き返されたハボックはたれめを細めて少々思案する。
自分から問い掛けておいて、答えを用意していないのか、とその場の誰もが呆れのような苦笑している表情を浮かべた。

「俺はなぁ、きっと軍に居続ける。」
「へぇ?」

少尉の言葉に面白そうに返したのはエド。
言葉には少々意外そうな響が有った。

「そんな、意外か?」
驚いた顔をしている仲間の面々を見渡して少尉は言う。
「だって、少尉の事だから彼女と逃避行するでもする、って言うのかと思った。」
悪戯を仕掛ける子供のような目をしながらエドが言う。
それに、少尉は軽く苦笑を返して、あぁ、それも良いなぁ。などと呑気な声で呟いた。どうやら念頭に無かったその答えに少々、少尉の彼女に哀れみを持ってしまった。

「そう言う大将は、思いついたか?」
「…あぁ。」

迷うような間があってからの返事。
顔にはなにやら苦々しげな表情が浮かんでいた。

「兄さん?どうしたの?」

いち早くその不機嫌さを感じ取ったアルがかける声に、何でもないちょっと自分で考えといて嫌になっただけだから。そう、エドは返す。

「てな訳でもう思い出すのも嫌だから、俺は秘密って事で。」

一同を見渡しながら言ったエドワードの言葉に、皆、不思議そうな顔をした。



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「なぁ、大佐。」
通信室でのやり取りの後、エドはロイの執務室に逃げ込んでいた。
どうやら皆先程のエドの答えが不服だったらしい。
半ば尋問に近い詰問にあう羽目となった為、最後の逃げ場として仕事中の恋人の所に転がり込んだのだった。

「何だい?鋼の。」

机の上に山積みされた書類にサラサラとサインをしていくロイ。

「あんた、それにちゃんと目通してんの?」
あまりに素早く書類を処理していくものだから、エドは胡散臭げにロイを見た。

「ちゃんと見ているとも。」
「んじゃぁ、この書類の内容は?」
これ、と適当に採決済の書類の山から引き抜いた紙を示す。

「3番街の下水が何者かによって破壊されていた件についての書類だろう。」
因みに、その犯人はもう捕まったぞ。
自身満々ロイは言う。

「…当たり」
驚いたような顔をしたエドは手の中の書類が正にそれである事に、少々面白くなかった。


変わりに表れたのは自分でも、なんて子供らしい感情なのだろう、そう思えるものだった。つまり、

その余裕綽々な仮面、剥がしてやる。


「…大佐。」

「ん?」
未だ、書類から目を離さず耳だけを此方に傾けながら、ロイが答える。

「さっきさー、ハボック少尉達と皆で自分が余命一年だと分かったら、何をするかって話をしてたんだ。」
あ、勿論皆休憩時間だったからな。

「ヒューズ中尉は、『オレは死なん!』って言い張って、ホークアイ中尉は『仕事の引継ぎ』、ハボック少尉は『そのまま仕事』だったんだよ。」

「さて、問題です。オレは何て答えたでしょう。」
ロイが漸く顔を上げて、エドの挑むようなその瞳を見つめる。

僅かな間も無く、ふっ、とロイが笑った。
「簡単なことだ。ヒューズと同じ答えになるのは気に食わないが、君も死なない。」

「…あんた、馬鹿?問題の意味分かって…」

「勿論分かっているとも。私がいない時に鋼のが死ぬなんて事はまず、有り得ないだろう。そして、私が居る前で鋼のが死ぬわけが無い。

だから、君は死なない。」

「あんた、馬鹿だろ。」
呆れたような言われたその言葉に、君に関しては馬鹿でも構わないがね。などと端から聞いたら惚気にしか聞こえない事を言う。

「それでも、オレがあんたから離れてったらどうすんの?」
ふと、思いついた事を言ってみる。

「安心しろ。鋼のは離れて行っても、私が離さないから。束縛なり何なりしておくさ。」
何だかさらりと素晴らしい言葉を聞いた気がした。


でも、当初の目的、ロイの仮面を外してやる、と言う自分の意地が、この言葉で崩れた。


「束縛なんかしなくても、オレはココに帰ってくるよ。」

ココ、とロイの胸元を軽く叩いて。
頬を先ほどの言葉と自身が発したもので、赤く染めてエドが言った。












・…逃げさせて下さい(いきなり何さ)
初めは最後のキスで書いてたのに・・何故にこんな違う話になってんだろぅ。
逃げ…てますね、この話。
分かってますとも、えぇ。
一番初めのカビールの文は全く話と関係ありません。ただ私が打ちたかっただけです(コラ)

エドの答えが何か知りたい方は此方→Addition.