愛しき愚か者/0.彼の熱に惹かれている




例外は、有る。
名門とは言え、その名に恥じない者ばかりではない。
「いいの、アキラ。彼女いるんでしょ。」
屋上で。教員たちの定義で言う所の中学生らしくない行動を取っている男女。
唇同士を繋いでいた唾液を赤い舌で舐め取った女は、ブラウスの中へと入り込んでいる手の持ち主に不敵な笑みを送っている。
「ばれなきゃいいんだよ」
タレ目の男――三上の手が女の背中へと回り、ブラジャーのホックが外された。
年齢にはいま少し不相応な、それでも健全な行為。私は悪いとは思わない。
「別にばれてもいいと思うのだが?」
「!さん」
「テメ、!!」
振り返った三上の顔は明らかに不機嫌だ。普通は浮気をされたほうがするべき顔。
「だが屋上は勘弁して欲しい。おちおちサボってもいられないからな。」
タレ目が私を睨んでいる。睨まれた所でなんとも思わないのだが。ただ、こういうわかりやすいところも好きだなと、再認識するだけ。
「チッ…行くぞ」
目をそらした三上は女の手を力任せに引いて階段へと向った。哀れな女はオロオロと着いて行っている。可哀相に。この後不機嫌な三上に鳴かされまくるのだろう。
「三上、」
扉へと手をかけ、今まさに屋上から去ろうとしていた所へ声をかける。
「あんだよ。文句でもあんのか?」
先ほどまでとは違い、うんざりとした表情をしていた。
「避妊はきちんとしろよ」
「それがこの状況で彼氏に言う台詞か?」
眉根に皺を寄せて言うと、三上は扉の向こうへと消えた。階段を下りていく足音が聞こえ、しばらくして消える。
風が吹いた。空が青い。いい天気だ。確かに、屋外でヤりたくなる気持ちもわからないではない。
「彼氏の身を気遣うのは、彼女として正しいと思うが…?」
誰も居ないのをいいことに、つぶやいてみた。
だいたい、屋上でサボっているのが私でなかったらどうする気だったのか。まあ、三上ならばその状況すら楽しむのだろう。
ああそうだ、腰を痛めないようにと言っておけばよかったな。
なんにせよ、私は三上が好きなだけ。三上が何処で誰と何をしようと三上を好きだ。
それ以外の感情が浮かばない。
こと恋愛に関して私は、自分でも驚くほど冷めているらしい。




モドル / ツギ